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ライフ・オブ・パイ/生と死が荒れ狂う海を、命のボートは漂い続ける

Posted by arnoldkillshot on 27.2013 映画タイトル:ら行 0 comments 0 trackback
『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日間(原題:Life Of Pi)』
2012年 アメリカ
監督:アン・リー
原作:ヤン・マーテル『パイの物語』
出演:スラージ・シャルマ、イルファン・カーン、アディル・フセイン、タブー、ジェラール・ドパルデュー 他

あらすじ:
カナダで宗教学を教えるインド人のパイ・パテル(イルファン・カーン)は、小説のネタを探していた作家に自らの信じがたい物語を聞かせる。インドのボンティシェリで父が経営する動物園で生まれ育った少年時代のパイ(スラージ・シャルマ)は、自然やあらゆる宗教を愛する純粋な少年だった。しかし彼が16歳の頃、一家はカナダへの移住を決め、動物たちを北米で売ることになる。離れ離れになったガールフレンドを想いながら船に乗り込むパイ。そこへ激しい嵐がやってきて、船は沈む。家族や動物たちを助けられず、一人救命ボートで生き残ったパイは悲しみに沈むが、ボートには足を怪我したシマウマ、その肉を狙うハイエナ、そして子を失ったオランウータンがいた。腹を空かせたハイエナが他の2匹を殺したとき、ボートに潜んでいたベンガルトラのリチャード・パーカーがハイエナに襲い掛かった。こうして美しくも獰猛なトラと、小さなボートに二人きりとなったパイ。常に自分を狙おうとするリチャード・パーカーとの緊張に満ちた漂流生活が始まるが、パイを待っていたのは人間の想像を絶する自然の姿だった。
(※感想後半には結末のネタバレを含みます!未見の方はご注意!)
感想:
1、物語が生まれる命の海
生けとし生けるものすべてに課されたたった一つの摂理は、生きることをやめないこと。それは本能としてすべての生物に刻み込まれ、自然界の生き物たちは弱肉強食の過酷なルールを当たり前のものとして生きています。しかし人間は、試練としての意味を見出さなければ苦しみを受け入れられない――そこから神話や信仰が生まれ、人々に苦しみながらも生きることを教えるのでしょう。そう、すべての物語、信仰、哲学は、むき出しの命で生きることから生まれる。そして自分が過酷な試練に立たされたとき、そうした物語が伝えようとしていた意味を生身で知り、絶望せずに生きることができるのです。

この『ライフ・オブ・パイ』は、救命ボートにトラとたった一人残された少年パイが語る、驚異の漂流生活の物語。裕福な家族の元、幼い頃から自然と宗教に親しんできたパイは、船の沈没で突然すべてを失い、恐るべき自然の中に投げ出されます。希望がなければ生きていけないちっぽけな人間と、奪い、与え、残酷で偉大な自然――その二つをつなぐのは、「神にしか手懐けられない」美しいトラ。恐るべき自然の中に命のボート一つで晒された少年は、生と死が混沌と混じりあう自然の中で、人の持つ信仰と希望がひとつに結びつき、苦しみの中で道を示すのを見ます。そして生き延びた少年もまた、小さな神話となる。力強い自然の生命力が、無力な人間の魂を強くする、それこそ神話や信仰の原体験なのだということを、この映画は教えてくれます。

2、自然と人との間に立つキリスト
パイが幼い頃、キリストの受難の意味を神父に尋ねた時、それは人に神を理解させるためだと教えられました。そしてパイに自然をパイに理解させるキリストは、リチャード・パーカーと名付けられたベンガルトラでした。自然は人間の想像以上に不条理なもの。死の危険に満ちていながら生命に溢れ、残酷でありながら慈悲深く、その営みすべてが美しい……そんな自然のあるがままを体現するリチャード・パーカーと対峙することで、パイは自然を理解し、自分の命とも向き合います。パイにとって、リチャード・パーカーは過酷な自然を生き抜く本能の象徴であり、ミニョネット号事件(モンティ・パイソンの救命ボートスケッチの元ネタですね)の犠牲者と同じ名前の通り、自然の犠牲としての死の暗示でもあります。そして何より、ブレイクが『虎』で「いかなる不滅の手、あるいは眼が汝の恐ろしい均斉を形作り得たのか」と讃えたように、自然が生み出した驚異というべき美しさは、生と死の残酷さを肯定しているかのよう。彼との緊張感ある関係は、命の危険にもかかわらず、未知の自然に投げ出されたパイを生きる方へと導いていくのです。

3、円周率の命
やがて混沌の自然の中、パイが生きてきた経験が繋がって意味を持ち始め、命をつなぐ道を示していきます。叔父に泳ぎを教えられたこと、リチャードとの最初の出会い、パイの3つの信仰――ヒンドゥー教の英雄的な神々と、人の罪の犠牲になった無垢なキリスト、イスラム教の実感――彼の生きてきた歴史が意味を持ち、パイの命をつなぎとめ、信仰を真に生きたものに変えていきます。ノアの方舟のように動物たちを乗せ、キリストのように漂流の受難を受け入れ、魚に化身したヴィシュヌを食べ、嵐の稲妻に神を見る……何もない大海原で起こる一つ一つの出来事が、神の意志、神の現れ、そしてこの自然の中に自分が存在していることの驚異。全てに意味があり、全てが繋がっている円周率の命(Life Of Pi)――それは決して人間社会では見いだせなかった、命の驚異です。

4、試練――苦しみを希望に変えるもの
しかしその信仰も、途方もない苦しみがなければ在り得なかった。彼の旅はただ美しいだけではなく、愛する家族や動物、頼れる社会も何もかも失ったパイの喪失感は計り知れません。そして人は苦しみの中で途方に暮れたとき、その苦しみに意味を求めます。なぜ自分が、なぜ奪い、苦しめる?受難を前にしたキリストのように、全てを奪われたヨブのように、苦しみを与えた神に問いかけるのです。神が人を試すとき、同時に人は試練の意味を見出そうと神を試す――
パイが獰猛なリチャード・パーカーをしつけようとしたり、力を誇示したりするのは自然の力を試すことに他なりません。それでも自然は無言。ただ答えは、自分が今生きているということ――そこに人は神を見出すのです。そして苦しみに練という意味を見出し、どんなに奪おうとも命を見守り続ける神を希望として、人は生きていく。それこそ信仰の原形であり、希望がなければ生きていけない人間に命の道を示すものなのです。実際、パイが目にした自然の美しさを見れば、神の存在を信じたくなります。光をまとって飛ぶクジラ、トビウオの群れ、海の底で星のような魚たち、ミーアキャットの楽園……誰の手も加えられていないのにこんなにも世界が美しいのは、神の手によるものだからではないのか?と。



※ここからはネタバレ全開でいきます。未見の方はご注意を!


5、ラストの解釈~疑いの信憑性と奇跡の証人
さて、これがパイの物語。そこで重要なのが、これがたった一人生き残ったパイが語っていることというポイントです。つまりパイの話には証人がいない。だから保険の調査員たちは、彼の物語に疑いを向けます。そしてパイは「もっと信じられる話」をするのですが、それは今まで語られた物語を覆す、絶望的な現実。つまり、最初に船に乗っていた動物たちは実は人間で、足を負ったシマウマ=船員をハイエナ=コックが殺して食べ、彼がパイをも手にかけようとしたときオランウータン=パイの母が殺された。そのとき隠れていたトラ=パイが反撃し、彼はコックの肉を食べて生き残った……そして語り終えたパイは作家に尋ねます、「どっちの話を信じたい?」
作家は「トラが出てくる話の方がいい」と答え、それに対してパイは「それが神を信じるということだ」と話をまとめます。つまり、悲惨な現実に絶望するのではなく、そこに隠された意味を見出し信じることが信仰だということ?そんなバカな!トラはいなかったって?今まで見てきたのは一体なんだったんだ!

しかし、ちょっと待ってください。パイは作家にこう言いました、「信仰はたくさんの部屋がある家のようなものだ。疑いの余地もたくさんある。疑いはいいものだよ、信仰に命を吹き込んでくれる。だけど結局、信仰の強さは試されなければわからない」。そう、パイの物語のテーマは試練。ならこの2つの物語のどちらを信じたいかという問いは、観客に対する試練なのではないでしょうか?疑いが残ってもなお信じるのか、それとも信じたくなくても疑いの余地が少ない方を受け入れるのか。それは聞き手次第ですが、やっぱりこの映画で素晴らしい映像を見た人は、その感動を信じたいと思うでしょう。だけどそれは、単に現実逃避であってほしくない。真実であってほしい。これが試練なら、耐えて見せようじゃないですか!

というわけで、パイの物語を疑ってみましょう。まず最初にボートにいた3匹の動物。あれは確かにあまりにも象徴的すぎました。そう考えると、後者の話のように動物=人間説は信憑性が高い。しかし何より問題なのは、リチャード・パーカーの存在です。リチャード・パーカーはパイの本能の鏡のような存在。だから理性と本能の戦いを経て生き延びたことを、トラとの関係に置き換えたというのは考えられます(パイはベジタリアンだから、人肉はおろか魚を食べることにも葛藤があったはず)。そこから考えると、物語の中心を占めるリチャード・パーカーとのやりとりは、理性と本能の葛藤の象徴にすぎないのかもしれません……確かに疑いの余地は、信じる余地よりも多い。何よりパイの物語を証明するには、トラを見た証人が必要です。しかしジャングルでトラを見た者は誰もいない、ただ最後に彼がジャングルに消えるのを見たパイを除いて。

そう、このラストシーンが重要なのです。なぜかと言えば、このラストだけパイの"物語"でなくパイが"語らなかったこと"だから!しかしそれでも、この光景が現実の記憶か、はたまた幻想かという疑いをはさむ余地もあります。そこで『ダークナイト・ライジング』の最後のシーンを思い出してみましょう。最後にアルフレッドが見た「あの人」は、はたして現実か幻想か。私は最初に見たときは「疑い」の立場、つまりアルフレッドの幻想だと思っていました。しかし2度目に見たとき、「あの人」が現実だと悟るに至りました。それは伏線もさることながら、このラストはアルフレッドがその目で、つまり観客がこの目で見た光景だからです。『ライフ・オブ・パイ』のラストでも同じことが言えるでしょう。物語には多くの疑いの余地がある、なぜなら聞き手はそれを体験していないから。しかし――これこそ映画の最大の強みなのかもしれません――最後に示される"語られなかったこと"を目の当たりにしたとき、初めて我々観客はパイの見たものを体験するに至る。つまり、パイの物語の証人は我々観客だったのです!
それでも、この最後の光景が幻想かもしれないという疑いはぬぐえません。原作のラストが映画と同じように終わるのかもわかりません。ただ一つわかるのは、このシーンを描いたアン・リー監督は、トラの存在を信じ、現実として描いたということ。そして映画の力を通して、トラと漂流した奇跡の日々が真実のものとした――つまりこの映画において、トラは確かに存在していた!私はそう解釈します。その解釈の上で、私はただ「信じたい」というだけでなく、「トラは本当にいた」と確信しました。もちろん2つの話の解釈は観る人によって違うし、まあそもそもフィクションなんですけどね。

私の解釈では、最初の3匹の動物はやはり人間だったのですが、リチャード・パーカーは本当にいたのだと思います。リチャード・パーカーがハイエナ=コックを食い殺し、それ以降は語られたとおり、パイとトラの攻防が続いたのでしょう。根拠は前述のとおりラストシーンなのですが、他にも、自然の過酷さに神を見出すほど信心深いパイが、生きるためとはいえ人肉食という神に背くことができるとはどうしても思えないのです。リチャード・パーカーがいたからこそ、神に背く人肉食を免れることができたのでしょう。先ほどリチャード・パーカーは自然を理解させるためのキリスト的存在と述べましたが、同時にパイが犯したかもしれない罪を代わりに背負ったという意味で、本当にキリストのような存在だったと言えるのかもしれません。

しかしこれはあくまで個人的な解釈であって、見た人の数だけ解釈は違うと思います。信仰に馴染みのない日本ですが、この映画を見終わった後、パイの小さな神話についていろいろ語り合ってみると、心の中に少し豊かなものが芽生えるかもしれません(ただトラちゃん可愛いで感想を終わらせないようにね!)。それを信仰と呼べとは言いません、しかし希望と呼ぶことはできるでしょう。でも、自分が体験したわけでもないのに、こんなに希望に満たされるなんて、ちょっと不思議な感じがしませんか?神を感じるとは、こんな気持ちのことなのかもしれません。


以上で『ライフ・オブ・パイ』のレビューを終えます。
パイの体験がどんなに過酷かはわかってるつもりなんですが、動物大好き人間嫌いな私としては、誰もいない海でトラと漂流するなんて、最高です。あんな可愛いトラちゃんに「くわせろニャー!!」と襲われたら、ニヤニヤしながら食われるかもしれません。


関連作品:

バルザックの短編「砂漠の情熱」(岩波文庫『知られざる傑作――他五篇』収録』
こっちは砂漠で豹と一緒。
この豹はメスで、リチャード・パーカーと違って主人公にゴロゴロいって懐きます。
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